板金曲げ「逃げ穴・逃げノッチ」とは?推奨寸法一覧とケース別選び方
板金加工の図面を描く際、曲げ加工の根元に配置する「逃げ穴」や「逃げノッチ」。
設計を始めたばかりの頃は、「なぜわざわざ穴や切り込みを入れなければいけないのか?」「どのくらいのサイズで描けばいいのか?」と迷ってしまうポイントの一つです。
ネットや教科書で調べても「具体的な数値一覧が載っていない」と悩んだことがある方も多いのではないでしょうか。
実は、逃げ穴の最適サイズが一律で書かれていないのは、単に「板厚 $t$ の〇倍」という単純な計算だけでなく、曲げR・金型(V幅)・加工法(タレパン/レーザー)といった現場の状況によって正解が変わるからです。
今回は、そもそも逃げ穴・逃げノッチとは何なのかという基礎知識から、標準的な推奨寸法一覧、さらには現場の物理限界を踏まえたケース別選び方とコピペで使える注記テクニックまで徹底解説します!
1. はじめに:逃げ穴・逃げノッチとは?(なぜ必要なのか)
まずは「逃げ穴」と「逃げノッチ」の基本と、それらを設ける理由を理解しておきましょう。
逃げ穴・逃げノッチの定義と違い
どちらも「曲げ加工時に、金属が引っぱられたり歪んだりするのを防ぐために、あらかじめ設けておく空間(抜き形状)」のことです。
- 逃げ穴(丸穴)曲げ線の交点や端部に「丸穴($\Phi$)」をあけて逃がす形状です。角が存在しないため応力(力)が一点に集中しにくく、加工時に破れ(クラック)が入るのを防ぐ効果があります。
- 逃げノッチ(切り欠き・U溝・V溝)曲げ線の端部や立ち上がり部分を「四角やU字型」に切り抜いて逃がす形状です。曲げ線を超えて深めに逃がすことができるため、加工後の干渉を防ぎやすくなります。
なぜ逃げ加工を行わないと「地獄」を見るのか?
金属板を折り曲げるとき、曲げ線の内側には「圧縮される力」、外側には「強烈に引っぱられる力」が発生します。
もし、一部だけを途中で折り曲げるような形状(フランジ曲げ等)で逃げ加工をしない場合、現場では以下のような重大なトラブルが発生します。
- 側面・フランジの引きつれと膨らみ(変形)曲げられて伸びようとする金属に隣接するフラットな面が引っ張られ、側面がめくれ上がったり、歪んで膨らんでしまいます。
- 根元の破れ(クラック・亀裂)金属の伸びの限界を超えた部分に強い応力が集中し、曲げの根元からメリメリと裂けてしまいます。
- 曲げ精度の著しい低下(角度が出ない)隣の形状に引っ張られることで抵抗が生まれ、ベンダー(ブレーキプレス)で圧力をかけても意図した曲げ角度(90°など)が綺麗に出なくなります。
つまり、逃げ穴・逃げノッチとは「金属が曲がる際に逃げるための“余裕(あそび)”を作ってあげるための必須の設計ルール」なのです。
2. 【基本】板厚(t)別の逃げ穴・逃げノッチ推奨寸法一覧
設計の標準値として、図面に落とし込める基本的な推奨数値は以下の通りです。
寸法設計の基本原則
- 逃げ穴の直径(D):原則として 板厚 t 以上(推奨:1.5t 以上)
- 逃げノッチの幅(W):板厚 t 以上(推奨:1.5t 以上)
- 逃げの深さ(H):曲げR + 板厚 t + 1mm 以上(曲げ立ち上がり線を超える深さ)
板厚別・推奨寸法リスト(目安一覧表)
| 板厚(t) | 逃げ穴径(D) | 逃げノッチ幅(W) | 逃げ深さ(H)の目安 |
| t = 1.0 | φ1.5 〜 φ2.0 | 1.5mm以上 | 2.5mm以上 |
| t = 1.6 | φ2.0 〜 φ2.5 | 2.0mm以上 | 3.5 mm以上 |
| t = 2.3 | φ 3.0 〜 φ3.5 | 3.0mm以上 | 5.0 mm以上 |
| t = 3.2 | φ4.0 〜 φ 5.0 | 4.0mm以上 | 7.0 mm以上 |
※逃げの深さ(H)は「内R=板厚(1t)」と仮定した場合の安全値です。
3. 教科書通りにいかない!状況で変わる4つのケース
ネットや本の数値通りにいかない最大の理由は、以下の「現場の加工環境や物理現象」が影響するからです。
ケース①:標準より大きな「曲げR」を指定している場合
内R(曲げR)が大きい設計の場合、曲げの開始位置(Rの止まり)が通常よりも外側に広がります。
そのため、板厚だけを基準にした標準の逃げ深さ(H)では足りなくなり、引きつれが発生します。
- 対策:逃げ深さ H は「板厚」ではなく、「指定曲げR + 板厚 t」の寸法をベースに深めに設定します。
ケース②:タレパン加工(金型抜き)かレーザー加工か
- レーザー加工機:丸穴でも四角ノッチでも、プログラム次第で自由な形状を同じコストで切断できます。
- タレパン(NCT):工場が保有している標準パンチ金型(丸型や長角型)のサイズに縛られます。例えば t=1.6 で幅 2.0mm の四角ノッチを指示しても、工場の保有金型が 3.0mmしかない場合、金型に合わせた変更確認の手間が発生します。
- 対策:タレパン加工が想定される製品では、入手しやすい標準径の「丸穴(φ)」で逃がすか、幅にゆとりを持たせるのが現場に優しい設計です。
ケース③:外観(見た目)重視か・曲げ構造重視か
- 丸穴(逃げ穴):角がないため応力集中が起きにくく、強度面では最強です。ただし、曲げ加工時に穴の一部が引っ張られて「楕円形」に歪み、外観に現れることがあります。
- 四角ノッチ(逃げ溝):曲げ線を完全にまたいで深く逃がせるため変形は出にくいですが、角部に応力が集中しやすくなります。外観の化粧面で変形を見せたくない場合は、四角ノッチで深めに逃がすのが効果的です。
ケース④:下金型(Vダイ)の溝幅による「吸い込まれ」干渉
ベンダー加工時、板材は下金型の「V溝」の上にセットされます。
もし逃げ穴の位置が曲げ線から離れていても、V溝の開口幅(通常は板厚の6〜8倍)の中に逃げ穴が入ってしまうと、曲げた瞬間に穴がV溝に吸い込まれて大きく変形する現象が起きます。
- 対策:逃げ穴の位置は、単に曲げ根元だけでなく「Vダイの溝幅の半値(V/2)」よりも外側に配置するか、あえて曲げ線上に重ねて逃がし切る必要があります。
4. プロの設計者が実践する「展開計算」と「逃げ指示」の裏ワザ
設計段階でどれだけ細かく寸法を決めても、加工現場では「展開計算(伸び値)」を行って平らな板(展開データ)を切断します。
このとき、設計者の描いた逃げ穴の寸法がシビアすぎると、工場の使うCAD/CAMソフトの自動展開処理でエラーが出たり、微調整が必要になってしまいます。
図面にコピペして使える「現場への逃げ注記」
現場の手間を減らし、かつ意図通りの製品を作ってもらうための最強の方法は、図面の注記欄で「加工の自由度」を現場に渡してあげることです。
以下の注記をテンプレートとして活用してみてください。
【図面用注記テンプレート】
- 曲げ部の逃げ穴・逃げノッチの形状および寸法は、加工メーカーの標準金型・加工機仕様に合わせて変更(拡大・形状変更)可とする。
- 機能上問題のない範囲において、逃げ穴の変形(楕円化)は許容する。
- 指定なき曲げ内Rは $R=t$(板厚)とし、曲げ逃げ深さは曲げR止まりを超えさせること。
この1行が入っているだけで、現場のオペレーターは「わざわざ設計者に確認の電話をかけなくても、自社の金型(タレパンの刃やレーザープログラム)で一番綺麗に曲がる逃げ形状に修正して加工できる」ため、劇的に喜ばれます。
5. まとめ:逃げを制する者が板金設計を制する
板金設計における「逃げ穴・逃げノッチ」は、一見すると小さな穴や切り欠きに過ぎません。
しかし、この小さな逃げを正しく理解し、余裕を持った指示ができるかどうかで、「変形のない美しい製品が作れるか」「工場の加工費や問い合わせコストを削減できるか」が決まります。
- 迷ったら「穴径・幅ともに 1.5t 以上」を確保する
- 深さは必ず「曲げ立ち上がり線(曲げR止まり)を超えさせる」
- 下金型(V幅)や加工機(タレパン/レーザー)による物理干渉を意識する
- 「逃げ形状は工場任意可」の注記を入れて、現場に遊び(自由度)を与える
馬鹿正直にガチガチの寸法で縛るのではなく、現場の物理的な動きを想像して「逃げ道」を作ってあげられるスマートな設計を目指しましょう!